こちらの記事では王将戦第6局の勝負所を解説していきます。
【ALSOK杯王将戦】主催:毎日新聞、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟
先手:羽生善治九段、後手:藤井聡太王将
【王将戦第6局のAI評価値推移】(プラスなら先手優勢/マイナスなら後手優勢)
注目された戦型は「角換わり早繰り銀」。羽生九段は急戦を選択。
藤井王将から前例を外す展開に進みました。研究範囲内、という様子が伺えます。
昼食休憩前後に双方1時間以上の長考合戦になりましたが、互角の状況から一歩藤井王将が抜け出しました。
評価値推移グラフを見るとわかるように、早い段階で藤井王将がリードする展開になり、リードを保ったまま決着。
これで藤井聡太王将は五冠を維持。2日制のタイトル戦番勝負で、フルセットを経験した事がないという無類の強さを誇っています。
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【初手からの流れ】
羽生九段の先手で開始。お互い飛車先の歩を突き、居飛車模様でスタート。
注目された戦型選択は「角換わり」でした。いくつか分岐がありますが、羽生九段は「早繰り銀」を選択。
途中まで「先手、永瀬王座vs後手、羽生九段」の前例で進み、羽生九段が先手の永瀬王座側をもっている状態。
(この対局では先手の永瀬王座が勝利)
恐らく自分が勝てなかった対局の勝った側の手を提示して、「君ならどう指す?勝てるのかい?」という問いかけのようにも見えました。
対して後手番の藤井王将は堂々と受けて立ち、先手勝利の前例を崩す手でリードを広げます。
この時点で、「勝負あり」という状況だったのかもしれません。
1日目の「午後のおやつ休憩」頃までは評価値としては互角でしたが、藤井王将の4筋の銀活用が効果的で、
評価値以上に「やや指しやすい」展開に見えました。
その後、羽生九段の方にAI評価値で「やや疑問手」判定される一手があり、40%/60%程度と初めて差が開きました。
先程の4筋に上がった銀の一手が中央を抑えており、大きかったように感じます。
羽生九段は苦しいと判断したのか、守りの一手が続き評価値は更に藤井王将側へ傾きます。
封じ手の時点では30%/70%程度(水匠だと―415)と、後手有利の判定となりました。
※封じ手前の藤井王将の一手(3筋に桂馬が跳ねた一手)が盤面を広く使う好手で、差を広げたように見えました。
私の視点では、この一手が勝敗を分けたように感じました。
2日目、封じ手後も慌てずに藤井王将は確実にリードを維持しながら少しずつ差を広げていきます。
驚いたのは藤井王将が8筋の飛車を浮かせた一手。
AI最善手として表示されていたのですが、人間の感覚だと指しにくい一手のように見えます。
私の想像を超える一手で驚きました。
(他にも候補手が色々あった中で、その一手を選べた、という事は相当先まで読めているのでしょう)
その後、羽生九段は「楽に勝たせるつもりはない」と言わんばかりの勝負手(2筋への角打ち)を放ちます。
この手、AI評価値では疑問手と判定されるような手でしたが、最善手以外の手を指すと、
以下のように評価値が同点/逆転するような罠が仕掛けられていました。
最善手:-738(後手有利)
次善手:+1(互角)
3:+27(互角)
4:+604(先手有利)
5:+834(先手優勢)
藤井王将は冷静に対応し、最善手で返しリードを維持。
多少の波はありましたが、終始リードを保ったままの完勝でした。
これで今シリーズ初の「後手番が勝利」となり、少し前に「後手番限定のスランプでは?」
という不安説も払拭できたのではないでしょうか。
先日の棋王戦第3局で渡辺棋王に悔しい負け方をした後、順位戦プレーオフで広瀬八段に完勝。
そして続く王将戦第6局ではここまで苦戦していた羽生善治九段に後手番で完勝。
「連敗しない藤井五冠」ですが、一度負けた後はより強くなっている印象があります。
谷川浩司十七世名人もコメントしていましたが、「みんなで寄ってたかって藤井王将を強くしている」という感じがありますね。
ライバルたちが「藤井対策」を練りに練ってぶつけてくる。そして苦しめられた藤井五冠が乗り越えて強くなる。
苦戦すればするほど、負ければ負ける程、強くなっていくように感じます。
藤井聡太五冠の存在が、将棋界の全体レベルを上げていますね。
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