将棋界で最も不思議な現象が「渡辺明名人が藤井聡太竜王に勝てないこと」です。
藤井竜王以外には強さを発揮する渡辺名人ですが、なぜか藤井竜王には極端に負け越しています。
今回の記事では、筆者なりに考えた「渡辺明が藤井聡太に勝てない理由・原因」を紹介します。
【2人の直接対決/対戦成績】
藤井六冠から見て、21戦18勝3敗。渡辺明名人から見て、21戦3勝18敗。
(進行中の名人戦でも現時点で藤井竜王が2勝0敗とリードしている)
※渡辺明名人、全敗というわけではなく3勝しているのですが、通算だと18勝3敗と大きく負け越しています。
タイトル戦に限定すると、15勝2敗。藤井竜王は17局も戦って、たった2敗しかしていません。
渡辺名人としては「好勝負はできるけど、なかなか勝てない相手」という印象になっているのではないでしょうか。
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渡辺名人が藤井竜王と相性が悪いと感じていることは、漫画家である奥様の描く「将棋の渡辺くん」でも紹介されています。
対局後や各種インタビュー、ツイッターやブログなので包み隠さず素直な言葉で伝えてくれるため、
渡辺名人の発言は将棋ファンにとって貴重な情報源でしょう。
過去のものから最近のものまで、いくつか「藤井聡太竜王に負けた後のコメント」を紹介します。
「終盤力が違いすぎるよなあ」
「えぐいよなあ」
「本局は中盤でちょっとポッキリと折れてしまった」
「最後まで闘うという当たり前のことができてなくて、すみません。」
初のタイトル戦での対決となった棋聖戦で1勝3敗(失冠)。
この時に「終盤力が違いすぎる」とインタビューで話していたことから、終盤力/先を読む能力に対して
かなりのリスペクトがある事が伺えます。(恐れ、と言えるかもしれません)
一度負けた後、渡辺名人は以下のような作戦を考えていたようです。
・藤井さんが負ける時は、早い段階で持ち時間を使ってしまい、終盤に残り時間がなくなって読み間違える時。
・終盤の読み合いになってしまうと勝てない=序盤・中盤でリードしておきたい。
その後のタイトル戦を観ていると、概ねその狙い通りに展開できている対局も多くあり、
互角かそれ以上で中盤まで乗り越えている事も何度かありました。
しかし、翌年の棋聖戦は3連敗。翌年の王将戦でも4連敗のストレート負け。
2023年の棋王戦では一矢報いましたが、1勝3敗で棋王タイトル失冠となりました。
終盤で藤井竜王が強い手で対応した際、「読み切られているのではないか」という心理が働いてしまうように思えます。
これは藤井聡太竜王との対局が多いからこそ、「藤井竜王の終盤力・読みの速度・深さを一番体感している」=「ある程度、わかってしまう」
という事ではないかと推測しています。
豊島将之九段と渡辺明名人は、藤井竜王の強さを体感している上位2人と言っていいでしょうから、
他のプロ棋士と比べて「より、藤井竜王の強さに対する信頼感」があるのでしょう。
名人戦の感想戦でも藤井竜王の読み筋に気づいていなかった場面があり、恐ろしいまでの終盤力を見せつけられました。
過去のこういった体験を繰り返すうちに、深層心理に残ってしまっているのかもしれませんね。
18勝3敗という対戦成績だけ見ると大きな差があるように見えますが、内容は接戦になっている事がほとんどです。
中盤を過ぎても五分五分な対局も多く、藤井竜王としても楽に勝った印象は無いのではないでしょうか。
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そして、もう1つ。相性と言っていいのかどうかわかりませんが、棋風が噛み合いすぎているように感じます。
渡辺名人が作戦を練って互角の勝負に持ち込むまでは成功⇒しかし、終盤力の差で最後に負けてしまう。
藤井竜王の終盤力の強さはプロ棋士になる前から有名になっていて、
プロ棋士も参加する詰将棋選手権に12歳で優勝しており、その後5連覇しているという圧倒的な成績を収めています。
AIとは関係のない部分で、藤井竜王は「読みの能力」が桁違いに高い。
「終盤に入った際に互角では勝てない」⇒より深い研究と作戦で、序盤・中盤で少しでもリードしようと対策を練る
⇒藤井竜王が乗り越えていく(更に強くなる)⇒渡辺名人は更に深い研究を必要とする展開になる。
これを繰り返しているように見えます。
最近ではより「藤井対策」の準備をしてきている様子が伺えます。
藤井竜王の得意な戦型を避け、不慣れな形に持ち込む。(=序盤で時間を使わせる)
方向性としては間違えていないと思いますので、あと一息のところまで来ているのではないでしょうか。
突き詰めていくと、藤井竜王を強くしているのは渡辺名人と言えるかもしれませんね。
一昨年、王位戦⇒叡王戦⇒竜王戦と3タイトル戦を戦った豊島将之九段も、同様だと思います。
1局、良い勝ち方ができれば流れが変わる可能性もあり、名人戦第3局に向けて渡辺明名人が立て直してこれるか注目です。
名人戦でストレート負けするようだと「藤井聡太には勝てない」という印象を強くもってしまいそうなので、
「何とかして1勝したい」という心境ではないでしょうか。
棋王戦で勝った1勝の時のように藤井竜王でも詰みを逃すことはありますので、まずは接戦に持ち込んで
できるだけ序盤・中盤で時間を使わせる。
後は最後まで強い気持ちをもって戦うこと。これしかないのかもしれませんね。